世田谷区では、区立小学校の5年生を対象として、群馬県利根郡川場村で2泊3日の移動教室を行います。
川場村の宿舎の写真を見せ提示します。立派な木の屋根に子どもも注目しています。
森林の多い川場村にあって、非常に立派な木が使われています。
「さすが自然の豊かな川場村の宿舎だよね。だから思わず宿舎の方に次のように聞いてみたんだ。」
「この立派な木は川場産ですか?」
すると…なんて返事が返ってきたと思う?
「外国産です。」
えっ!て驚いて、すかさずこう聞いてみたんだ。
「えっ!?どこの国ですか?」
すると
「そこまでは分かりません…」
何とあれほど立派な屋根の木は外国産で、しかもどこから来たのかわからないというのですから、子どもたちは驚きます。
そして次に、川場小学校で使われている机の木を紹介しました。
「では、これはどこ産だと思いますか?」と聞くと、
「ん~もしかして、これも外国産?」
しかし、これは正真正銘の川場産なのだそうです。
「え??じゃあ、今自分たちが使っているこの机ものはどこ産の木を使っているのだろう?」
子どもは目をむきます。身のまわりの木がどこから来たのか、問題意識が確実に醸成されてきたのです。
「先生どこ産ですか?」と質問してきますが、「どこだろうね。」とほのめかし、「身のまわりの木はどこから来たのだろう?」という本時の課題を共有します。
そこでまず、日本で使用されている木材の割合(自給率)のグラフを見せます。
そこには、「約70%」と「約30%」と数字だけ示されています。
「さて、どちらが国産で、どちらが外国産でしょうか?」と問うと活発な議論になります。
「やっぱり、自然が豊かな日本だから、70%が国産なんじゃないの?」「いやでも、川場のこともあるし、以外と外国産の方が多いんじゃないかな?」と。
なんと、自給率約30%のほうが国産なのです。
この事実を知ると、「え?なんで??」
日本は森林率約67%で世界3位なのに、どうして外国から輸入するの?という問題意識になります。
自分たちの周りにはこれだけ森林が広がっているにも関わらず、外国産の木を輸入している。その矛盾を埋めようと、調べ学習にもがぜん熱が入ります。
追究を進めていくと、次のような理由が明らかになってきました。
・林業家の不足や搬出の道の未整備により値段が上がってしまう。
・したがって、木を切っても売れにくい状況にある。
次のような資料からも、国民(都民)が木材に関心が薄いという実態が浮き彫りとなりました。
「東京の多摩地域の木材「多摩産材」」
マークには「東京の木」と書いてありますが、都政モニターアンケートによると、約9割の都民が「多摩産材を知らなかった」と回答しています。
身近な地域にいくら豊かな森林があっても、国民の多くはどこの木が使われているのかということには、あまり関心がないようなのです。
「外国(マレーシア)産の木材の状況について」
「国産、外国産ということで学習を進めてきました。先日、外国の森林について、このような新聞記事を見つけたので紹介します。」と、1枚の新聞記事をパワーポイントにまとめた物を提示します。
マレーシアのロング・ジェイク村は、世界最速の森林破壊の地域の一つです。
大規模に伐採が進められており、生活を奪われた現地の人々が苦しんでいます。
「では、どうして違法伐採されているのだろうね?」「使いたい人がいるから?誰がそんなに使っているのだろうね?」と問いかけながらやり取りを展開します。
子どもはザワザワし始めます。
「うそでしょ? まさか…でしょ?」
「そう、最大の輸出先は…」スライドに示された表示は、なんと「日本」だったのです。
ロング・ジェイク村のマトゥ・トゥガン村長は、実際に、「我々から盗んだ木を使わないでほしい!」という手紙(嘆願書)を日本政府に送り、木材調達をやめるよう訴えています。
それを聞いた子どもからは、日本を非難する声があがります。
心に訴えかけられていて、すごくイライラしている様子です。
「でも、日本とは言うものの、木を使っているのは一体誰なの?」と聞くと
「…国?」
「国って?」
「え?僕たちってことですか?」
「有り得るよね。だって、今使っているものが、どこの木かわからないのだから。」
ここで「自分たちに何ができる?」とは問いません。なぜなら、「何かをしよう」と自分ごとになっていない子ども(つまり心が動いていない子ども)に、できることを書かせても、あまり意味がないと考えるからです。
それよりも、次のように問います。
「ここまで学んできて、あなたが問題だと思うことはどんなこと?」と。
すると、子どもたちは、自分たちが問題だと思うことを自分の言葉で語り始めます。
「東京にも多摩産材という木があるのに知らないこと。」
「国民が日本の森林に関心がないこと。」
「林業家が不足していること。」
「日本が海外から木材をたくさん輸入していること」等々
子どもは、自分たちの無関心さが、知らず知らずのうちに、日本や世界の森林に影響を与えてしまっていることにやるせなさや驚きとともに気付いたのです。そして、身の周りで使われている木について、もっと関心をもたなければいけないんじゃないかという気持ちが生まれます。
「そこに気付かせたい。教える側の価値観を一方的に押し付けたり、子どもたちにできることをすぐに書かせたりするのではなく、一人一人が自分で考えることで、自分ごととして気付かせたいのです。」
そして最後に、「でも、木がどこ産かなんて分らないよね。木に表示なんて書いてないしね。」
そこで、FSC(=適正に管理された持続可能な森林の証拠)のマークの写真をいくつか示すと、子どもにとって身近な商品がたくさん。
「あっ、知ってる!見たことある。」「えっ、それにもついてるの?」「家に帰って見てみよう!」とたくさんの反応が。
このような展開で授業を組み立てれば、頭と心を働かせて、自分たちで動き出したくなって日常生活とつながる学びになるんじゃないか。一緒に授業を創ってきた仲間たちとそう考えてきたのです。心から関心さえもてば、自分でできることなんていくらでもあると子どもたちは分かってきます。
本気で学んで、自分ごとにさえなれば、「何ができるか」なんて聞かなくても、子どもたちは自分でどこまでも考えます。
これはおまけとして授業後に…どうしてこういった授業をしてきたかを子どもに伝えました。
「先生達も森林のことに関心がなかったから、森林に入ってみたんだよ。」
そのときの写真を見せながら、
「〇〇先生も行ったよ。雪の日も行ったんだよ。こちらは林業家の○○さんだよ。ほら、今日もそこにいらしていて、さっきの輪切りの木もみんなのために切ってくれた方だよ。こちらは林業関係の教授の方だよ。そして、これは東京都の森林の担当者の方だよ。」
というように、みんなに森林に関心をもってもらいたいという人が日本にはたくさんいて、その人たちの想いも詰め込んで、みんなに授業を通して考えてほしかったんだよ、というメッセージを伝え、授業を締めくくります。
量や時期などしっかりルールにのっとって正しく採った人たちが、適切な流通の末、適切に販売されることを認証する制度です。
違法に伐採された木が安く売りさばかれている現状をストップさせるためには、そのマークがついている商品をを消費者たちが選んで買うことです。
そうすれば、正しい人にしっかり資金が流れて、その人たちの生活を支えることになります。
川場村には100年以上の歴史を持つ学校林(村有林)があります。子ども達の教育環境の充実に役立てる資産とするために、先人たちがつくったものです。
川場村の小・中学校では、その学校林(村有林)の間伐材を使い学校机の天板を製作し、入学時に配布するそうです。
それを在学中は自分のものとして使用し続け、卒業時に思い出の記念品として配布します。
平成28年度小・中学生(270名)全員に配布済。