東京の木・森のしごと

5-4 木育授業の事例

世田谷区立等々力小学校

中楯先生の熱い想い

「よい授業」を教師は目指すと思いますが、教室の中だけでよい授業が行われても誰の何の役にも立たないと私は思っていて、その中で完結してしまっては、そこでお終い。
学びとは、学んだことで自分の何かが変わって、日常生活に活かせることだと思っています。小学生にできることはいくらでもある。教師が何かやりなさいと言うのではなく、学んだことによって自分の中で意識が変わって、知識が更新されて、自分で何か動きだせるような、そういう授業を目指しています。
大袈裟な話ですが、「授業を通して、教育を通して、社会を変える。」日本の森林の絶望的な現状を本気で変えたいと思って、授業をしています。

木育授業を通して、子ども達に伝えたかったこと。

「知る・自分事にする・徹底的に強い関心を持つ」

日本の森林の現状をまず知ってもらいたいと思いました。私自身も全然知らなかったし、知れば知るほどこれは大変な状況だと思ったので。
そして、頭で知るだけでは、きっと人は動かないし、どれだけ自分事にできるか、子ども達が自分に近づけるか。
無意識のうちに知らないことがこの現状を招いているのかもしれないということも、すごく大事にしたかったことです。


森に入る様子の写真


できることは本当にいくらでもあります。関心さえもてれば、関心の出口はどこにでもある。
自分で森に行ってもよし。募金してもよし。ボランティアに行ってもよし。それこそ林業家になってもよし。何でもいいと思っています。とにかく徹底的に強い関心をもってもらう。
それが授業の本当の狙いです。

自分自身も、東京都中の教師に声を掛けて、4~50人くらい集めて、一緒に森に入りました。教師が現地に行って、森林の重要性や現状などを聞いて、実際に木を切る体験をしたり、道を作ったり、林業家の仕事を見たり想いを聞いたりすると、授業の内容が全く変わってくるんですよ。全然質が違ってきます。教科書の内容を伝えるだけと、実際に体験して感じたことを伝えるのでは雲泥の差です。

伝えたことによる達成感・子ども達の変化を感じたこと

日常化が生まれたことです。
実際に森に行ったり、親子体験教室に行く子もいましたし、私が発表者として参加した森林シンポジウムに来て大人たちに交じって議論してくれた子もいました。
あとは、森林認証マークを見つけては伝えてくれたりなど、関心の目は確実に高まっていて、日常に活きている子が多々いるなと感じています。

一番実感していることは、子どもの心と頭を通って出てくる言葉にすごく力があるし、この授業を通して子どもが考えた感想にはすごく価値があると思っています。
その文章を読むと、自分を通してしっかり考えられているし、頭だけで考えるのではなく心も通っている。学んできた知識もしっかり盛り込まれている。
そこが大きな変化だな感じました。あの授業を受けなければ、そうは書けないであろう、考えられないであろうことが考えられていた。それが一番の成果だと思います。
仮にその後何も行動していなかったとしても、あれだけ心と体を通して、自分の言葉としてつむぎ出した言葉は、きっといつか芽が出てくる。もしかしたら中学生になってからかもしれないし、大人になってからかもしれませんが。よく拙速な行動を求めるなと言いますが、種を植えられたかなと思います。
いつか強く、どこかのタイミングで、何かのきっかけがあれば、芽を出してくれるのではないかと思っています。

世田谷区立等々力小学校

※内容および所属役職等は取材当時(2019年1月)のものです